子どもと母親に寄り添う人との対談・インタビュー

現役助産師がコロナ禍で改めて気付いたこと

塚越 好美 さん

アドバンス助産師
産院、総合病院での勤務や助産所研修を経て、現在は地域で妊婦や新生児訪問や産前教室での講師、助産師学生の引率、産院での非常勤助産師として関わらせていただいてます。

NPO法人「きびる」は母親一人一人の妊娠・出産・子育てにおける心身の負担を軽減することを目的に設立しています。母子が健やかに暮らしていくための支援に関する事業を行います。大きなテーマとすると、我が国における虐待やネグレクト防止に寄与することを目的として設立した法人になります。

このインタビューは動画でも観られます。

助産師になったいきさつ

私は自分が出産をしたことで「なんかこの仕事いいな」という風に感じて、そこから職場を変えて自分が出産した病院に就職しました。

それおっしゃってましたもんね。それって一人目のお産がきっかけですか?

そうです。

そう思ってもなかなか行動に移せなかったりってあると思うんですけど、それくらい突き動かすものって「これ!」みたいなものがあったんですか?

やっぱり衝撃的。自分がイメージしていたお産って、すんなりいくだろうなみたいな感じのお産だったけど、あまり予習するような妊婦ではなかったから「もうなるようにしかならないだろう」みたいな感じで臨んだんですけど、やっぱりなんかその、赤ちゃん自身も頑張っているっていうことをその時知ったというか。助産師さんに言われて「赤ちゃんも頑張っているんだ!」みたいな。それで、あんなに辛い大変な思いをしたのにも関わらず産んだ後の達成感とかが半端なくて。お産を経験したことで人生観というか価値観とかそういうものが全て覆った感じで、親に対しての気持ちとかもすごく考え方が変わったなという経験をして、看護学校時代は絶対助産師は無理だって思ってたんですけど、実際自分が出産をしたことで考え方が変わったという感じです。

お産って、なるようになるよって思う

先ほどのいきさつの中に「なるようにしかならない」というか「なるようになるよ」って言うことですけど、結構今の方って先回りしていろんな情報が溢れているが故にすごく思い悩んだり、考えすぎたりされると思うんですけど、そういう風に行き詰ったり考えすぎたり、ある意味行動に移すというよりも考えすぎてどうにかなっちゃうっていう人が多いかなと私の印象的に思うんですけど、今のお話のキーワードで「なるようになるよ」っていうところはどんなメッセージですか?今までお産にたくさん携わってきた中で何か伝えたいことはありますか?

やっぱりお産って「命懸け」というのがあると思うんですけど、今って本当にお産をすること自体がイベントみたいな感じになっていると思うんです。私が産んだのはもう20年近く前だからインターネットとかそういうのがまだまだすぐにスマホを見て調べられるような状況でもないし、結局周りから聞く情報のほうが多くて、やっぱり一番身近なのは母親だったかな。「なるようにしかならないんだよ」っていうのを。
だけど、なるようにしかならないけどある程度自分で努力するっていうことはすごく気をつけていたし、言われたこと、例えば今はもう体重コントロールとかは厳しくないかもしれないけど、その頃は体重のこととかも言われてたし。赤ちゃんのことを思いながら生活はするんだけど、実際は産んでからのほうが想いが大きくて、本当に愛おしいなっていう感じが出てきて。「なるようにしかならない」っていうのは、その人自身が精一杯頑張って、その頑張った結果かなって。自分自身でやるだけのことはやって、例えば私の場合は経膣分娩できたけど途中で帝王切開になっちゃう人もいたりする。それは致し方ないことというか、赤ちゃんが元気でお母さんが元気で生まれてくれればそれでいいんじゃないかなって思います。

じゃあそういうところで責める必要はないし、精一杯頑張った結果ってことですね。

あとはおっぱいとかに関しても、おっぱいであげないと母親失格みたいな、もちろん経膣分娩でお産しないと母親失格みたいに思う人いるんですけど実際、全然そんなことないよっていう。一生懸命やって赤ちゃんが成長していくうえで、全員が全員おっぱいが出るとは限らなくてやっぱり何%かは出ない方もいるから、そのなかでも精一杯その気持ちが大事かなと思うので。

こういう風に助産師さんが言ってくれるのはすごく心強くて、結構自分の母親とか義理のお義母さんに言われる人も多いですよね。「下から産んでなんぼ!」みたいな。なんでお母さんがそういうことを、人生の先輩が言っちゃうのかなと思うんだけど。結構おっぱいのこととかも追いつめられる根源はおじいちゃん・おばあちゃんだって言いますよね。

「こんなに泣いてるんだからおっぱいが足りてないんじゃないか」とか簡単に言うからすごく追い詰められちゃう方もいたりとか、「ミルクを足せばいいんだ」っていうお母さんもいれば「なんでおっぱいが出ないんだ、お母さんは出たけど」みたいに比べたりされると、実の母親が言うことが「もうやめて!」って感じる人も実際に結構います。

助産師を目指す人へ先輩助産師として

いろんなお話が聞けて、助産師さんになりたい人とかって結構多くいらっしゃって、具体的にリアルに考えている人から赤ちゃんがただただ可愛いっていういろんなレベル方とか層の方がいらっしゃると思うんですけど、一番の魅力や塚越さんが大変だなと思っても乗り越えられる魅力って何かありますか?

今自分が分娩に関わっていることっていうのが大きいと思うんですけど、自分が助産師になろうと思ったきっかけになったのが分娩だったので、その分娩に立ち会うことができるっていうのがまず一番にあって。ただ分娩だけが助産師の仕事じゃないって最近は思うようになってきて、実際地域の助産師として働くようになって産む前とか産んだ後のお母さんたちと子どもに会えるということ、続けて見ていけるっていうことがすごく幸せだと感じるし、継続して見ることで自分も一緒に成長しているなという風に感じます。

あえて言うならば、こんなに良い助産師の仕事でも逆に大変とかきついとか、こういう時に心が打ちひしがれるとかありますか?

やっぱり出産って赤ちゃん自身が本当に元気な時だけではないので、実際お腹の中で亡くなってしまうとかそういうこともあるから、そんなときに「もっとこうしていたらどうだったんだろうか」とか、「自分がこういう風にしていたらどうだったかな」っていうのを考えさせられるときはありますけど、分娩中に赤ちゃん自身の心音が落ちたりっていう時にはすぐに帝王切開に出来るような状況であるから、それを判断するっていう責任はすごく大きいなって思うけど、入院前とかにそういうことがあったりすると「保健指導の時にこういうことを伝えられていたらもっと早く防げたんじゃないか」とか、そういうことを感じることはありますね。

責任の重さというか。

そうですね。

コロナ禍での出産に携わって

まだまだコロナが収束したとはいえないこの状況の中で、立ち会い分娩だったり母親学級だったりいろいろ出産期医療をめぐる周りがだいぶ変わったと思うんですけど、だからこそ感じたこととか自由に何かあれば教えてください。

リモートでいうなら、母親学級などがリモートだったりビデオなどで見ることができるようになった反面、直接聞きたいことが聞けないというのは不安が軽減する状態でお産に臨めるわけではないから、そういうなんでも聞ける場っていうのをなかなか持てないっていうのは産婦さんは不安だっただろうなと思います。だけど私が夜勤とかで行っている病院は無痛分娩がすごく増えたんですね、このコロナ禍で。計画分娩なども増えたんですけど、無痛分娩をするんだっていうことを実のお母さんに言わないでくださいとか。結局、母親とかはお腹を痛めて産んでなんぼみたいな昔の考え方があったりするから。だけど無痛分娩をすることで、なかなかずっとご主人とかご家族が付き添うっていうことができないじゃないですか。今まではできていたけどできない状況だと自分一人である程度頑張らないといけないっていうところに、無痛分娩をすることで産痛緩和をできることがどれだけ気持ちを落ち着かせたり安心感を得られる状況を作れるっていうので、無痛分娩も悪くないなって感じるようになりましたね。

無痛分娩とかいわゆる痛みをコントロールしたことで責められたりとか、自責の念を持っていたりする人に対してそういうことではないよって伝えたいということですか?

そうですね。やっぱり携帯とかで外から応援してくれるかもしれないけど、側に付き添って一緒に頑張ることができないコロナ禍の分娩の中で一生懸命必死に頑張っているから、無痛分娩をしても全然いいんじゃないの、頑張っているよねって思います。

そうですよね。結局は頑張って産んだのはママには変わりないんだし。

あとは「私、無痛分娩しません」っていう人の側に誰かいてもらえない。ずっと助産師としても付いていてあげたいけれど付いていてあげられるような状況でないときもあるので、そんなときに不安が強いとお産が進まないこともあるから、そんなときに「無痛にやっぱりしたいです」「途中から無痛にできませんか?」っていう人もいたりして、そうすると今までの耐えに耐えた痛みがちょっと和らいだことでお産がぐっと進む人もいたりして。無痛自体がリスクがないわけではないからあまり勧めない先生もいるし、だけどやる先生もいるし助産師もそれなりに勉強して対応しているので安心して受けてもらえばいいんじゃないかなという風に感じます。

「大丈夫です」「出来てます」って言葉が一番心配

経膣分娩だと5日、帝王切開だと1週間くらいの入院ってすごく短いし、ちょうど子宮が戻ってきたりおっぱいがちょうど張ってきたりっていうトラブルのピークくらいの、ちょうどトラブルが現れやすいときに退院するじゃないですか。それで、産後のケアについてこういうこと届けたいよとかこういう風に思うと楽だよとかっていうのを自由に話してもらってもいいですか?

入院中の授乳っていうのが一番大変かもしれないです。退院するまでにできる限り退院した後の授乳とかがスムーズにいくように関わらせてもらってるのが病院とかクリニックの助産師なのかなって思うので、お家に帰る前にいろいろ不安なこととかは聞いて帰ってほしいなっていうのはありますね。でもやっぱりミルクを足しながら帰る人っていうのももちろんいるし、病院の方針とかもいろいろあると思うんですけど、一番はお母さんの思いが大事で、「できればおっぱいをあげたいんです」っていうお母さんがほとんどなんですけど。もう絶対何がなんでも完全母乳にしたいんですっていう人も時々いるんですけど、すごく思いが強すぎて心が折れてしまう人もいるんですよね。私は退院する頃、例えばミルクを足しながらであってもその思いが大事だから気長にいきましょうっていう話をしてます。それでその時のおっぱいの状況とかも伝えつつ無理のないように、お家に帰って聞くことがなかなかできないと思うから、地域に助産所とかがあったりとか相談できる場所があれば聞いてもらってもいいし、お産したところとかで授乳ケアとかしているようであればぜひ利用していただきたいと思います。

助産師さんってすごく忙しそうだから不安なこと聞いてほしいって言われてもなかなか声かけられないって言っている人でも、ぜひ?

忙しそうにしている人でも捕まえてほしい。

それっていいですね。そう言ってもらえるのって。

「大丈夫です」っていう言葉が一番心配なんです。「大丈夫です」「できてます、大丈夫です」って周りに気を使う方ってできてなくても大丈夫ですって言って結局自分を追い詰めてしまう人も多いので、何かあったら聞いてほしいし助けを求めてほしいなっていう風に感じます。

このメッセージはきっと心強いですよね。助産師さんを捕まえてもいいんだ、忙しくしていても。不安なことは解消して帰ってねっていう思いですよね。

総合病院とかだとどうしても妊娠・出産って正常な流れっていう風に考えられると、どうしても産婦さんとか褥婦さんって後回しになりがちになっちゃうんですよ。他の患者さんからナースコールが来たりするとそっちに行かなきゃとかあると思うんですけど、でもそういう時にも一応声をかけておいてもらってまた来てくださいっていうことを伝えておいた方がいいと思う。

コロナ禍で入院中面会が制限されママの一番大変な時を見ていないからパパも含めた産後ケア施設を作りたい

コロナ禍でお産した人、またこのお家帰ってからの育児とか、結局旦那さんも参加するのがお家に帰って初めてとかになってきたりするから、本当にお互いに教えることもなかなかできないし、頑張ってお産したんだっていうことが旦那さん自身は見てないとどういう風に伝え、認めてあげるというか、一緒にその場にビデオがあってっていうわけではないから。旦那さんがどこまで共有してくれていてどこまでいろいろ手伝ってくれているんだろうなっていうのがちょっとわからないところだから今はすごく不安だろうなっていう。お家に帰ってからご主人とかも一緒に産後フォローできる場所があったらいいなっていう風に思います。

そのために今何かこう動いていらっしゃったり、目指してたり準備されてることって?

まず一つは妊娠期から関わりを持っていきたいと思うので、妊婦検診とかを家庭でできればいいなという風に思っているのと、また産後は県内でも産後ケアの限りがあるので産後ケアも宿泊型、それも旦那さんも泊まれたりして一緒に育児のできないところとかも教えたりとかっていうのができたらいいなっていう思いはあります。

そこで一番強化すべきというか力を入れたいところって、例えば睡眠とか食事とかそういう基本的なこともあったりすると思うけど、こういう研修がしたいとかこういうセミナーというか講習があるといいとかってありますか?

お母さんに対してのリラックスしてもらう、大体お母さんってそういう産後ケアを利用する時ってやっぱり休息を図りたいっていうのがあるんですよね。また旦那さんも休息を図りたいっていう場合もあって、だから一緒に図れるようになればいいなって思っているんですけど。そのリラックスできた時にお母さんへのリラクゼーション的なものでマッサージとかそういうのもあったらいいなと思います。自己流というか学んだことはできるけど、実際産後のお母さんとかに対してそういう学習の場があったらいいかなと感じますね。

これから出産する人へ

今産む前に不安とか心配を抱えている人たちへのメッセージをお願いいたします。

産む前の人たちに対しては、今後コロナがどういう風になっていくかっていうのはわからないけれどもお腹に宿っていることには違いなくて、成長していく過程っていうのは家庭でご主人も一緒にいると思うから、たくさん赤ちゃん自身に話をしてほしいなって。いろんな不安を抱えながらの分娩になる可能性もあるけど、それをなるべく改善・軽減していければいいなって思ってるから、だけどネットで経験談とかを漁ると逆に不安が強くなったりとか、何を信じたらいいんだろうっていうのがあると思うので、産むところの産院とかの助産師さんに不安なことがあったら聞いてもらえるといいかなと思います。リラックスして過ごしてほしい。

比較する必要なんてない

そうしたら今度は産んだ人に、産んで産後まだ間もない人とかって「不安だ」「心配だ」「私だけできてない」とか結構言う人いるじゃないですか。そういう人に対してって何かありますか?

比較することは全然必要なくて、自分は自分だし同じお産なんて一つもないし、おっぱいに関しても全然比較する必要はないからミルクを足していても悪くないし、気持ちが大事だから自分を追い詰めないこと。ある程度妥協点とかを決めておく、「ここまで頑張ったんだから別にこうしてもいいんじゃないのかな」っていう。どうしてもこうしなきゃいけないっていうのはないと思う。コロナの中で産後鬱になるっていう人も多くなっていると思うので、自分を追い詰めない、頼れる時には頼る。それが行政とかそういうところでやっていることがあれば、そういう行政の人とかとも繋がっておいてもいいかな。病院だけではなくて。

完璧なお母さんっていないですよね。

そう、完璧は求めない。私も求めないし、自分自身に。やっぱり自分自身に妥協点、ここまでがんばったからいいかっていう。きっとそこが頑張ったっていうところで満足に繋がると思うので、全く何もしないでやるとそれはそれであとで後悔になったりするかもしれないけど、ここまで頑張ったからっていう満足感というのが重要なんじゃないかなと思います。